量子科学技術研究開発機構/量子メス開発に関する研究成果と将来構想を紹介
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)は、7月9日、オンライン上で、次世代高性能がん治療装置「量子メス」の開発の進捗等を紹介する2021年度第1回QST記者懇談会を開催した。
はじめに、QST理事の野田耕司氏が「量子メス開発の現状と将来展望」と題して講演。旧放医研時代からの重粒子線治療開発に関する歴史的経緯とその意義を説明し、「日本では毎年約100万人が新たにがんになり、約40万人が死亡している。中国、米国、欧州企業との競争を勝ち抜き、日本発の重粒子線がん治療装置の更なる普及を目指して『量子メス』を1日も早く完成させ、『がん死ゼロ健康長寿社会』実現に貢献したい」と述べた。
つぎにQST病院長の辻 比呂志氏が「量子メス技術開発の成果と課題─量子メス待望論」と題して講演した。辻氏は、これまでの重粒子線治療による治療成績を紹介しながら「国内のがん患者は増え続けており、掛かっても死なない治療戦略を確立することが重要で、そのために『量子メス』の開発が待たれる」と新しい治療装置開発への期待を語った。
量子メス研究プロジェクトマネージャーの白井敏之氏は「量子メス技術開発の成果と課題」と題して講演を行い、3.5Tまで5秒で加速する超電導磁石とマルチイオン照射技術を搭載した世代治療装置、さらにレーザー駆動イオン加速の原理を応用した第5世代治療装置の開発について言及。「2020年代後半までに第4世代治療装置をQST病院に建設し、同年代までに第5世代装置の技術確立を目指す」と述べた。さらに従来型粒子線装置の最大の課題であった“巨大で高価”という点を克服し、価格を装置価格で約50億円、建物に10~20億円程度と、現在の装置より大幅にコストを抑えた装置の普及を目指すとした。