放射線医学総合研究所・東芝/重粒子線治療装置用の回転ガントリーを新開発
放射線医学総合研究所(以下、放医研)と東芝は、世界で初めて超伝導電磁石を使用した重粒子線治療装置用の回転ガントリーを開発。その完成発表会が2016年1月8日、放医研新治療研究棟(千葉県千葉市)で行われた。
搭載する電磁石のサイズによりガントリー全体の大型化が避けられない重粒子線治療装置は、必然的に固定照射装置が一般的であり、X線や陽子線では一般的な回転ガントリーの採用が困難なことが課題であった。回転ガントリー式の装置は、従前はドイツの施設の大型装置(全長25m)のみで、普及型のコンパクトな装置の開発が待ち望まれていた。
そこで放医研と東芝は、回転ガントリーに搭載可能な超伝導電磁石を開発し、円筒型の回転体に搭載することで、ガントリーの小型化(全長13m、直径11m)を達成。そして同ガントリーを用いた重粒子線治療装置を、新治療研究棟の回転ガントリー治療室に設置したのである。同装置には3次元スキャニング照射装置とX線呼吸同期装置を採用。この2つを組み合わせることで、周辺を正常細胞が取り囲む腫瘍に対して呼吸同期により線量を集中する強度変調重粒子線治療(IMIT)が可能となる。
なお放医研では、2015年度中にビームの試験を行い、2016年度に入ってから呼吸同期など臨床使用を想定した試験を実施。2016年度中の治療開始を目指していく。
報道発表会には、放医研からは重粒子医科学センター長の鎌田 正氏の他、辻比呂志氏と野田耕司氏が参列。記者説明会に先立ち、鎌田氏は「今回の回転ガントリーは、日本が世界でトップを走っている超伝導技術、その高度な技術を持っている東芝、20年にわたる我々の重粒子線治療のノウハウ、この3つの結集により完成したと考える。重粒子線にまた1つ新たな世界が広がり、この装置を使うことで治療自体も変わってくるのではないか」と挨拶した。
続いて東芝代表取締役副社長の綱川 智氏が「普及型の回転ガントリーを持つシステムを今回初導入したが、今後は世界に供給し、世界の医療に貢献していきたいと思っている」と抱負を語り、重粒子線関連の事業は今後も東芝本体が担うことを明言。東芝電力システム社原子力事業部長の畠澤 守氏は、「我々は長年、核融合や超伝導、加速器の先端技術開発に取り組んできたが、それが治療の場で用いられることを大変光栄に思っている」と挨拶を述べた。
重粒子線用回転ガントリーの技術や概要に関しては、放医研・次世代重粒子治療研究プログラムリーダーの白井敏之氏が説明した。
同氏は装置開発の波及効果について、「普及可能な回転ガントリーにより、今後の重粒子線がん治療の普及が期待される」と指摘。今後の展望として、超伝導技術の加速器への応用と超伝導電磁石の高磁場化を挙げ、「その2つが実現すれば加速器とガントリーがより小型化され、結果、10m四方の部屋2つで重粒子線装置を構成することも可能になる」と語った。
記者会見の後、回転ガントリー治療室において、デモ用運転が報道陣に公開された。