JRC2018
放射線医療関連の国内最大イベント「JRC2018」が、4月12~16日の4日間、横浜市・パシフィコ横浜で開催された。主催は一般社団法人日本ラジオロジー協会。JRC2018は、第77回日本医学放射線学会総会(JRS)、第74回日本放射線技術学会総会学術大会(JSRT)、第115回日本医学物理学会学術大会(JSMP)、2018国際医用画像総合展(ITEM2018)の合同イベント。日本医学放射線学会総会の会長は今井 裕氏(東海大)、日本放射線技術学会総会学術大会の大会長は錦 成郎氏(天理よろづ相談所病院)、日本医学物理学会学術大会の大会長は小口 宏氏(名古屋大)が務めた。今回のメインテーマは、「夢のような創造科学と人にやさしい放射線医学(Innovative Science and Humanism in Radiology)」。
3学会合同のシンポジウムのほか、それぞれの学会で数多くの講演・セミナーなどが実施された。3学会の登録入場者は、1万2861人、国際医用画像総合展の来場者は、2万2220人だった。
次回「JRC2019」は、メインテーマを「革新的な放射線医学を―患者に寄り添って-」として、第78回日本医学放射線学会総会の会長は山下康行氏(熊本大)、第75回日本放射線技術学会総会学術大会の大会長は石田隆行氏(阪大)、第117回日本医学物理学会学術大会の大会長は蓑原伸一氏(神奈川県立がんセンター)。会期は、2019年4月11日(木)~14日(日)、パシフィコ横浜で開催を予定している。
<冒頭挨拶・基調講演>
大友 邦日本ラジオロジー協会代表理事は、冒頭挨拶で今回テーマ前半の“夢のような創造科学”とは、“将来向かうべき未来”のことであり、後半の“人にやさしい放射線医学”とは、“忘れてはならない人が担う医療”を表した素晴らしいテーマだと述べた。さらにJRC30年の歴史を振り返りながら、放射線医学の今後一層の発展を心より願うと締めた。
基調講演は、今井 裕日本医学放射線学会総会会長が、「日本医学放射線学会の将来構想」をテーマに講演。「医療における放射線医学の担う役割」について、①国家レベルでの多くの臨床データを元に構築された施策に基づく放射線医療の適正化のための体制(Japan Safe Radiology)、②種々の新しい治療法も把握した上での診断学の構築、③Radiomics/Radiogenomicsに基づいた診断・治療、④放射線診断・治療への人工知能(AI)の活用の各視点から放射線医学の取り組みを具体的に述べた。今後進展が予想される「人工知能の活用」では、人工知能を用いた過程は人間の考え方とは異なるため、最終診断は放射線科医の判断でなければならないとした。
<合同開会式・合同特別講演>
合同開会式は、大友 邦・日本ラジオロジー協会代表理事、今井 裕・日本医学放射線学会総会会長、錦 成郎・日本放射線技術学会総会学術大会大会長、小口 宏・日本医学物理学会学術大会大会長、小松研一・日本画像医療システム工業会会長が登壇し、各団体会長と大会長の挨拶に続いて基調講演が行われた。
合同特別講演は、ノーベル賞受賞者である田中耕一氏(島津製作所)が、「分析と医用の融合によるヘルスケアへの新展開のために」を演題に講演。田中氏は、次世代質量分析システムの開発と創薬・診断への貢献について、その研究実績と今後の方向性について示し、一滴の血液からさまざまな病気の診断と創薬・治療の手掛かりを得る手法を解説。特にアルツハイマー認知症(AD)病変の早期検出への応用における医学・薬学のプロセスを述べ、分析機器との組み合わせにより、医用機器の存在意義がより高まると結論付けた。
<合同シンポジウム>
合同シンポジウム1のテーマは、「医療被ばく低減に向けての取り組み」。国際放射線防護委員会(ICRP)Claire Cousins氏の基調講演「ICRP and Priorities for Radiological Protection in Medicine」に続いて、赤羽正章氏(国際医福大)、宮嵜 治氏(成育医療研究センター)、Elmar Kotter氏(独・フライブルク大)、市田隆雄氏(大阪市大附属病院)、大野 剛氏(熊大)5人の講演が行われた。赤羽氏は、「Radiation Dose Management in CT: Thing to Do Right Now」を演題に「被ばく低減で早急にすべきことは、個人の努力ではなく明確に組織または役職の仕事化だ。そして、診断能と被ばく低減が拮抗する形で運用されて欲しい」と述べた。宮嵜氏は、「Radiation Dose Reduction in Pediatric Radiology:Current Situation in Japan」を演題に「日本では小児の診断参考レベルが2015年、診断ガイドラインは2016年にできた。共に諸外国よりも大幅に遅れ普及が急がれる。被ばくに関するリスクコミュニケーションという考え方も学ぶ必要がある」と述べた。
<合同表彰式・CyPos>
CyPos展示に関するViewing Areaには、多くの参加者が閲覧エリアを訪れ、発表演題の発表内容に見入っていた。CyPos賞では、第77回日本医学放射線学会総会のPlatinum Medalに森谷浩史氏(大原綜合病院)と桑原奈都美氏(愛媛大)、第74回日本放射線技術学会総会学術大会のPresident Awardsに南出哲也氏(九州がんセンター)、第115回日本医学物理学会学術大会の大会長賞には、三木健太朗氏(広島大)ら8名がそれぞれ受賞し、最終日に合同表彰式において表彰された。
<JRCアワー>
特別企画として開催されるJRCアワー2018は、今年のテーマに診療報酬改定で注目されている画像管理加算を巡り、「激論・管理加算を考える」を開催した。最初に、「How Do We Manage ‘Added-fee for Radiological Managements on Imaging-studies(ARMI)’?」と題して井上貴裕氏(千葉大)が講演し、画像管理加算の現状と今年の診療報酬改定で変わったポイント、国内における画像管理加算を巡る問題点を概説した。また、画像管理加算を取っていない立場から工藤與亮氏(北大病院)、放射線科の疲弊によって画像管理加算2の取得を止めた平井俊範氏(宮崎大)、画像管理加算2を死守し続けている高瀬 圭氏(東北大)の3氏が自院での現状と画像管理加算取得のメリット、デメリットを説明。その後総合討論に移り、司会の山田 惠氏(京都府立医大)、井田正博氏(荏原病院)を交えて会場からも多くの質問・意見が出される白熱した議論が行われた。
<イメージ・インタープリテーション・セッション>
スマートフォンのアプリケーションを活用した会場参加者による投票が行われるなど、新機軸を取り入れたイメージインタープリテーションセッションではさまざまな領域から5問が出題。応募総数109票(ネット59票、紙50票)のうち、正答率が1桁パーセントの難問が3題もあるなど解答者を苦しめたが、5問中3問正解した岩谷健二郎氏(京都府立医大付属北部医療センター)、佐藤 修氏(大津赤十字病院)、南 康大氏(慶大)の3名が成績優秀者として発表された。
<ランチョンセミナー>
ランチョンセミナーは30題が行われた。4月13日に行われたキヤノンメディカルシステムズとの共催ランチョンセミナー「キヤノンMRIの新しい幕開け」は、濱本耕平氏(自治医科大附属さいたま医療センター)が、「Clinical Application of New High Resolution 3D Imaging~Additional Value for Accurate Diagnosis~」について講演した。同氏は、新ハイレゾリューション3Dイメージング、UTE(Ultra-short TE)の有用性、非造影MRAの新展開をテーマに挙げ、ハイレゾ3Dについては「高画質3D撮像法のQuick StarとFast 3Dはルーチン検査に導入可能であり、診断精度の向上に寄与し得る」と語った。続いて北島美香氏(熊本大大学院)が「Deep Learning ReconstructionのMRI画像診断にあたえるインパクト」を演題に講演を行った。
4月15日に行われた日立製作所のランチョンセミナー「放射線画像診断の未来」は、はじめに中村優子氏(広島大)が「腹部領域におけるHITACHI 3T TRLLIUM OVALの可能性」と題して講演した。広島大が導入した3テスラMRIの腹部領域での有用性について説明し、同装置を用いた新たな撮像・解析法に関する取り組みについて紹介した。次いで「AIによる画像診断支援への取組み」として白旗 崇氏(日立製作所)が、日立が取り組んでいるAI技術の活用を紹介。再入院リスク予測やAIによる画像診断支援技術を取り上げた。
<日本医学放射線学会>
日本医学放射線学会は、シンポジウムを12題行った。4月13日のシンポジウム6「新専門研修時代の放射線治療医育成を考える」では、冒頭に角谷眞澄氏(元 信州大)による基調講演が行われ、長谷川正俊氏(奈良医大)がJASTROの立場から、唐澤克之氏(都立駒込病院)が都市部基幹病院における、澁谷景子氏(大阪市立大)が地方大学(山口大)病院の現状と男女共同参画からの、長縄慎二氏(名古屋大)が放射線診断専門教授の教室における、永田 靖氏(広島大)がJASTROがん放射線治療推進委員会の立場から、それぞれ放射線科治療医の育成について講演した。
<日本放射線技術学会>
日本放射線技術学会は、4月14日にシンポジウム2「Integration of Medical Engineering and Radiological Technology:Expected New Technology/モダリティごとの RDSR(Radiation Dose Structure Report)の現状と今後」が行われた。司会の奥田保男氏(放医研)が冒頭で線量管理の重要性についてコメントした後、坂本 博氏(東北大)が、「DICOM RDSR の基本構造」と題して照射線量管理はDICOM RDSRで収集できるが被ばく線量管理はさまざまな診療情報を集めて管理する必要があると説明。続いて小田雄二氏(日本画像医療システム工業会)が、国際規格としてのRDSRについて説明。上野登喜生氏(福岡大学病院)は、自院の血管造影部門におけるRDSR の利活用について、古場裕介氏(放医研)は、同施設で開発したCT被ばく線量評価システム「WAZA-ARI」について紹介した。
<日本医学物理学会>
日本医学物理学会は、4月13日に教育講演「研究倫理の厳格化―あなたの研究は発表できなくなる」で、山本 徹氏(北大)による講演が行われた。山本氏は、「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」が求めているポイントとして、特に研究開始前に倫理審査を受ける必要があることを強調。しかし、一方で所属組織に倫理審査委員会がないことが多い現状の問題点について触れ、研究者は倫理委員会がある研究機関との共同研究などを考慮しながら研究開始前に適切な研究計画書を作成することが重要であると述べた。
<国際医用画像総合展>
我が国最大の医用画像に関する展示会「2018国際医用画像総合展」(ITEM2018)は、4月13日~15日の3日間にわたり、各学術大会と同時にパシフィコ横浜展示Aホールで開催された。画像診断装置や周辺機器などを中心に167社が出展。天候にはやや恵まれなかったものの来場者は今年も2万人を超えた。
<日本画像医療システム工業会(JIRA)会長記者会見>
2018国際医用画像総合展(ITEM2018)開催初日である4月13日に、日本画像医療システム工業会(JIRA)の小松研一会長が記者会見を行った。小松氏は、「画像医療システム産業を取り巻く事業環境・社会ニーズが急速な変化を遂げるなか、JIRAはその変化に対する2018年度の活動基本方針として、①画像医療システム産業発展への貢献、②ICT技術を活用し医療に貢献、③医療、医療システムの国際展開を支援、④JIRA基盤活動の充実について推進していく。①については政策への提言活動の強化や中小企業の支援、②についてはIT産業および医療系ベンチャー企業の支援や医療機関との情報共有、③についてはDITTA活動の推進や海外進出支援を行う。④については広報活動の強化としてJIRAホームページの運用強化と刊行物の充実、および調査・研究活動の強化としてJIRA市場統計や導入実態調査の精度向上に努めていく。さらに、『画像医療システム産業が目指す姿(JIRA画像医療システム産業ビジョン2020)』での4つのビジョン、1.少子高齢化社会にあって世界に先駆けた医療イノベーションを実現する、2.予防・健診・診断・治療から広くヘルスケアの領域で質の高い医療環境を実現する、3.ICT利活用促進により医療の質向上と医療機器産業拡大に貢献する、4.日本ならではの医療・医療システムを世界に提供し貢献する、の実現に向け重点活動に取り組んでいく。まとめとして、医療機器の長期使用が進み保守管理の重要性が増す中で、院内の点検を含む保守点検の実施率がなかなか向上しないという状況がある。このことは患者の安全確保の観点からも大きな課題であり、JIRAおよび会員企業はこの状況改善のために引き続き取り組んでいく」と述べた。