コニカミノルタ/東北大との共同研究で脳磁場を簡便に低コストで計測する高感度センサを開発
コニカミノルタは、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の安藤康夫教授のグループと、同大学院医学系研究科の中里信和教授との共同研究で、室温で簡便に動作する、高感度かつ高分解能のトンネル磁気抵抗(TMR)素子生体磁気センサ(以下、TMR磁気センサ)を開発し、脳活動の一つであるα波の検出に成功した。
同研究は、科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)における研究開発テーマ「スピン流を用いた新機能デバイス実現に向けた技術開発」(プログラムオフィサー:安藤功兒)の研究開発課題「トンネル磁気抵抗素子を用いた心磁図および脳磁図と核磁気共鳴像の室温同時測定装置の開発」(プロジェクトマネージャー:安藤康夫)の一環として実施された。
同研究で開発を進めている脳磁計・心磁計は、室温で動作する多数のトンネル磁気抵抗(TMR)素子をアレイ状に集積して、高感度磁気センサとして用いるものである。このTMR素子のセンサ感度は、SQUID現状ではのそれには及ばないものの、個々のセンサは体表面に密着して計測可能であるため、感度の向上に併せて空間分解能をも格段に向上させることが期待できる。このようなことから、TMR素子を鎧帷子状に配置して、頭部や胸部の皮膚に密着させた状態で脳・心磁図を計測することにより、信号源から放射状に発生した磁束をすべて拾い上げることができるため、信号源推定がより容易となる。同研究開発は、実際に室温で動作する脳・心磁計を試作して、その有用性を実証することを目的として行っている。
脳磁図の応用については、現在のセンサの感度では用途は限定的だが、振幅の大きな脳信号を発生する薬剤抵抗性てんかんの術前治療で威力を発揮することが期待される。てんかん異常波は、常に出現するとは限らないため、一般的に長時間の測定が必要とされていたが、TMR磁気センサを用いた室温動作・密着型の脳磁計では、拘束度が低いために長時間の連続計測が可能になる。TMR磁気センサの感度が向上することにより、脳梗塞の初期診断、アルツハイマー病などの認知症の診断、精神疾患の診断などにも脳磁図診断は応用可能であり、TMR磁気センサを用いた脳磁計による安価な計測が可能になれば、脳ドックのような健康診断装置として広い普及が期待できる。
また、心磁図がリアルタイムで計測可能になったことで、室温心磁計の実現が期待される。加えて、TMR磁気センサの特長である高分解能測定によって、不整脈、狭心症、心筋梗塞部位の診断精度が格段に向上し、安全に術前評価が可能になる。特殊なシールドルーム外で動時にも心臓をモニタリングすることが可能であることから、心筋梗塞のリスクを有する年代に対して従来よりも安価な健康診断を提供可能になると考えられる。
さらにTMR磁気センサは、小型・低消費電力の特長も併せ持つことから、ウェアラブルデバイスへの応用が可能であり、ウェアラブル化によって応用範囲は格段に広がり、計測医療分野に大きなインパクトを与えることが期待される。