国際モダンホスピタルショウ2017
医療・介護・福祉関連製品を展示したイベント「国際モダンホスピタルショウ2017」が、有明の東京ビッグサイトで7月12日~14日の3日間にわたって開催された。
今回のテーマは、「健康・医療・福祉の未来をひらく-連携と地域包括ケアの充実を目指して」。全国各地で取り組みが進んでいる地域包括ケア構築の実際を具体的に示す形となり、参加者は医療従事者を中心に8万人を超えた。
開催初日には、オープニングセッションが行われ、日本病院会新会長の相澤孝夫氏が、『病院の機能分化と連携』をテーマに“医療計画の見直し”、“病床機能報告”、“地域医療構想と調整会議”をメインに病院の現況と課題について講演した。将来人口推計や医療制度改革の概要、高齢化社会における入院医療の変化等についてグラフを用いて具体的に病院を取り巻く環境の激変を示した。さらに改革の時代における病院経営の取り組みとして、1.変化(時代の要請)を的確にとらえること、2.変化に対応するミッション、ビジョンを定めること、3.ビジョンの下に仮題・目標を定め、懸隔を立案すること、4.PDCAサイクルを回し、目標を達成すること、の重要性を強調した。
また、展示場の入場口前でイベントのオープンに先立ち、日本経営協会による主催者挨拶や、厚生労働省・日本医師会・日本看護協会等の来賓や出展社代表、およびホスピタルショウ委員長による挨拶に続いてテープカットなど開会式が行われた。
ホスピタルショウカンファレンスは、会期中に32の講演を開催した。そのうちの1つ『電子カルテ活用の課題と今後の展望』では、3人の演者が講演。はじめに、牟田 学氏(日本・エストニア EUデジタルソサエティ推進協議会)が、『エストニアに見る医療情報システムの未来-患者中心にデザインされたエストニアのeヘルスとは』と題して、バルト三国のエストニアにおける先進的な医療情報システムの現況を紹介した。牟田氏は、「日本と比べ、エストニアはeヘルス関連法や電子カルテの標準化が進んでおり、低コストによる医療ITを構築して24時間365日体制で稼働している。こうした取り組みには合理的な意思決定が重要」と、日本との現状を比較した。次いで『医療情報における標準化の課題-電子カルテ・集約された医療情報を活用するために』と題して村田晃一郎氏(北里大)が講演。医療情報を活用するためには標準化が必要と述べ、5つの事例と北里大学における標準化の問題点を説明した。最後に、岡本和也氏(京大病院)が、『医療現場から考える電子カルテ-カルテ電子化の落とし穴から抜け出すために』と題して講演し、自身が同院で構築した電子カルテについてとその時の苦労話を語り、電子カルテ構築に際しては、医療現場とコミュニケーションをとり、独りよがりにならないようなシステムを構築することが大事であると述べた。
オープンステージセミナーは、シュナイダーエレクトリックによるセミナーで、小日向隆行氏(相澤病院)が『病院サーバ室の環境を考える』を題に講演し、自院におけるサーバ環境の改善事例を紹介した。同氏は、「相澤病院は99年のオーダリングシステムをはじめ、短期間につぎつぎと新しいシステムを導入したため、サーバが増え、入りきらなくなったサーバ室をその都度移転していた。サーバ室の中は、メーカーや容量が違う多数のUPSやさまざまなメーカーのラックが置かれ、配置もレイアウトがバラバラで効果的な冷却ができずに、空調機からダクトを延ばして冷却し、ケーブルもスパゲティ状態であった」とサーバ室の効率的な運用が難しくなった経緯を説明。そして、病院の増改築に伴いサーバ室を新築移転し、サーバ周りの環境を改善した効果について、「UPSを統合し管理工数の低減とエネルギー利用効率の向上ができた。ラックを統一したことで、冷却効率の向上や効果的なケーブリングができるようになった。空気の流れを考慮したラック配置にしたことでサーバが冷えるようになり、電源ユニットやディスクの故障が減った」と語った。
出展者プレゼンテーションセミナーは、3日間を通じて24セッションで行われた。
アライドテレシスは、『クラウド・IoT時代の医療系ネットワークとセキュリティ対策』が行われた。同社専務取締役の川北 潤氏が同社のネットワークソリューションに関する最新情報を紹介した後、山下芳範氏(福井大)が講演。医療機関におけるICTの現況と、今後のクラウドや仮想化技術を取り入れた医療系ネットワークの構築について説明した。さらに今後のIoTの活用の可能性に言及し、「IoTは、あらゆる医療情報を集める手段と考えられる。このような医療ビッグデータ時代に適応したセキュリティ対策が必要」と述べ、新技術を用いたネットワーク構成やセキュリティ対応方法を紹介し、「ネットワークと認証基盤、セキュリティは、医療機関における重要なインフラとして考慮すべきである」と、その重要性を強調した。最後に、同社のネットワーク統合管理ソフトウェア「AT‐Vista Manager EX」のデモンストレーションが行われた。
Skyは、『意外と知らない!目からウロコのPC管理法~新病棟開設に伴って』を開催。奥村幸光氏(名古屋掖済会病院)が、2015年の同院での新版電子カルテへの移行と2016年の新病棟開設に伴うIT資産整備における同院の取り組みを紹介しながら、医療機関向けIT機器管理システム「SKYMEC IT Manager」の有用性を解説した。講演の後半では、名古屋地域における医療情報連携ネットワークでの活動内容を説明し、現在進められている総務省2017年度クラウド型HER高度化事業である「はち丸ネットワーク高度化事業」の詳細を紹介し、さらに平成30年度診療報酬改定に向けた検討項目の中に、ICTを利活用した医療情報共有の在り方があることについても言及。健康・医療・介護の全領域においてICT化と情報システム化がますます重要な位置づけになりつつあるとして、今後IT資産管理ツールの重要性が問われると語った。
インターシステムズジャパンは、『患者中心の医療情報システムSHACHIによる医療革命』を開催した。藤田伸輔氏(千葉大病院)は、現在の医療では診療を継続するために患者が納得してもらうことが重要であるという“コンコーダス(Concordance)”の考え方に基づく医療をすべきであると述べ、そのためには積極的なカルテ開示による患者の不安・疑問を解消することが大事だと主張。自身が開発した医療情報システムSHACHI(Social Health Assist CHIba)を紹介し、その有用性を解説した。
富士通は、山田秀臣氏(東大病院)が、『2020年に向けて、日本語が話せない患者とのコミュニケーションICTでスマートに解決する』をテーマに講演。日本にはすでに多くの在住外国人がいて、近年は膨大な数の外国人観光客が短期、長期で日本にやってくる。さらに渡航患者の数も右肩上がり。そこで、日本にいる外国人が直近のピークを迎えると予想される2020年(東京オリンピック開催年)をめどに、日本語が不得手な患者と、医師が適切な会話を交わせるためのICTを利用したコミュニケーションツールの開発が進められている。具体的には、ウエラブル端末を介してお互いの音声を自動翻訳するという形になるようで、富士通と山田氏を中心とした東大病院で始まった臨床実験には、現在は全国のおよそ20の病院と東京都医師会も参加し、臨床実験の成果は加速度的に上がっているという。現状では、まだいくつかの課題はあるものの山田氏は、「英語と日本語での会話は、精度が上がりかなりスムーズで、ハンズフリーで会話中に端末を操作する必要がない段階まで到達している。現在の臨床実験は本年中に終え、2018年にはより本格的な運用に向けて実証試験に入る予定。対応する言語も現時点では英語がメインだが、主要な言語は網羅する予定だ」と述べた。そして、「医療という、翻訳するには非常にハードルの高い分野から発進したことで、他分野への転用も楽になるはずだ」と結論付け、現在開発中の技術が決して医療だけにとどまらないことも予見した。
展示会場内では、医療情報システムゾーン、医療連携・セキュリティ対策ゾーン、医用画像・映像ソリューションゾーン、医療機器ゾーン、健診・ヘルスケアゾーン、看護ゾーン、介護・福祉・リハビリゾーン、施設環境・アメニティゾーンの8ゾーンに分けられ、計344社により新製品などが展示された。
医療情報システムゾーンは、全8ゾーンの中で最大の157社が展示を行った。医療・介護・福祉分野へのICT導入・普及の成果がみられる展示となり、多くの来場者が足を止めていた。