国際モダンホスピタルショウ2016
医療・介護・福祉関連製品を展示したイベント「国際モダンホスピタルショウ2016」が、東京・有明の東京ビッグサイトにて、7月13~15日の3日間開催された。来場者は8万942名、出展社は336社を数えた。
会場内は、5つのゾーンに分けられ展示が行われ、展示社数および展示面積ともに最大だった「医療情報システムゾーン」は、地域医療や多職種連携を支える医療情報ネットワーク製品の充実が伺えた。中でも、地域連携や院内での医療連携支援のクラウド型システムやネットワークシステムなど、IT関連の新製品展示は、多くの来場者の注目を集めていた。
<オープニングセッション>
7月13日には、オープニングセッションが行われ、日本病院会会長の堺 常雄氏が「待ったなしの医療・介護提供体制改革」をテーマに講演した。堺氏は、初めに我が国の医療提供体制の課題を挙げ、日本の医療が目指す姿と今後の課題を述べた。最後に「医療・介護提供体制が大きな変革の時を迎えている今、求められているのは課題の明確化と『新たな価値創造』である。中でも地域の関わりが重要になってきており、利用者ニーズにいかに応えるかが大きな課題と思われる」と締めくくった。
<病院経営フォーラム>
山本隆一氏(医療情報システム開発センター理事長)が、「マイナンバーの基盤を活用した医療等IDと個人情報保護」について講演した。マイナンバー制度導入のロードマップや利用範囲、番号制度における情報関連の概要を述べた後、「医療介護情報への展開」として医療等IDのあり方、厚労省での検討体制について解説した。その上で、残る検討事項として申請方法や他情報との紐付けの仕方、本人同意の取得方法、情報アクセスの手段、法的な位置付けなどをあげた。さらに、レセプト情報・特定健診情報等データベース(NDB)収集経路や利活用、個人情報保護法制とのかかわりや課題についても言及。また個人情報保護強化のための規定整備や問題点などを具体的に示し、「改正個人情報保護法制の運用の難しさや医療等IDの導入、遺伝情報のフェア・ユースを促進するためには、医療健康情報利活用促進法として法整備が必要ではないか」と締めくくった。
<ITフォーラム>
①「医療における人工知能の活用について」、②「ICTとクラウドで進化する地域包括ケア」、③「仮想化基盤・IoT活用による地域医療システムの未来」と題し、先進の医療IT技術が紹介された。このうち、③「仮想化基盤・IoT活用による地域医療システムの未来」では山下芳範氏(福井大病院)が、「仮想化技術とIoT技術の医療情報システムでの活用と展望」と題して講演。「IoTは情報を集める技術。スマートデバイスとともに活用することで、本当の意味での“ユビキタスホスピタル”が実現できる」と述べるとともに、仮想化技術の重要性を解説。同大病院で実施している仮想技術とIoT技術の運用事例を紹介し、今後の医療におけるクラウド技術やIoT技術の役割について持論を展開した。
中後 淳氏(亀田メディカルセンター)は、「亀田総合病院のICT改革の取り組みとAoLani(アオラニ)プロジェクト」と題して講演。亀田メディカルセンターの概要と医療ITに関するこれまでの取り組みを紹介した後、現在、同センターが開発・導入を進めている亀田グループの新診療支援システム「AoLani」および同システムを用いたクラウドネットワークについて解説した。
<出展社プレゼンテーションセミナー>
東芝メディカルシステムズによるセミナー「大学グループ病院を統合した次世代画像ネットワークシステムの取り組み」では、小林泰之氏(聖マリアンナ医科大)がグループ内画像連携システムの概要と現況などについて説明。同氏は次世代に求められる画像システムの要件として、「画像データから得られる情報全てを、迅速かつ適切に臨床医へ届け、データベース化して効率的に利用可能とし、患者のマネージメントに役立てられるシステム」を挙げた。その概念に立ちシステムを統合し、4病院1クリニック間で全く同じ読影環境および画像の統合管理体制を構築したと報告。また、システムを活用してベンダーと共同開発する臨床解析アプリケーションに関しても言及し、その事例として大動脈計測径アプリおよび腫瘍ボリューム計測アプリの概要を述べた。さらに同氏は、「施設間やベンダー等と強力に連携した次世代画像情報システムを構築できたので、これからは病院内の異なる部門システムの連携、他施設との異なるPACSやRISとの広範な地域連携など、VNAを実現していくことになる」と今後の展望を語った。
インターシステムズジャパンによるセミナー「長崎県五島市における調剤情報共有システムのご紹介」では、菅原正典氏(五島薬剤師会会長)が、長崎県五島市で開始した医療関係者による調剤情報共有システム構築の経緯とその取り組みについて紹介した。高齢化率35%以上という離島医療が抱える課題について、「大きなコスト負担を伴わずに医療介護連携ネットワークと、高齢者の見守りシステムを構築することが重要であり、地理的要因からICTの利用が不可欠」と自説を強調。情報共有システムでは、データの二次利用を推進するために同社のデータベースを活用し、後発医薬品の利用推移を解析するなどの成果を上げていると説明した。今後は長崎県の医療情報共有システム「あじさいネット」とつなげることで、市内の医療施設との連携強化と市外の医療施設とのネットワーク構築を図りたいと述べた。
日本医師会ORCA管理機構によるセミナーでは、日本医師会常務理事の石川広己氏が「日本医師会のICT戦略について」をテーマに講演。医療・介護情報連携と医療情報ICT化の共通基盤の構築、医療・介護分野のビッグデータ構築と利活用、ORCA事業の継続-日本医師会ORCA管理機構の創設、広範な医療・介護分野におけるクローズドネットワークの形成を紹介。「医療・介護連携の必要性が高まっており、SNSの利用が進んでいる。しかし、データ漏えいを防ぐためには専用のクローズドネットワークが必要であり、日本医師会はその提供を目指している」と語った。
アライドテレシスのセミナーでは、山下芳範氏(福井大病院)が「医療におけるクラウド・IoTの活用と新しいセキュリティ対策」について講演した。同氏は、最初に医療情報システムにおける仮想化・クラウドおよびIoTの活用現況やこれからの展望について解説。「通信機器対応の医療機器の増加等の理由から、ネットワーク環境の改善が不可欠となる。その対策の1つとしては、仮想機能の活用・統合ネットワークの実現が挙げられる」と述べた。また、IoTによる多くの機器・センサーやBYOD等の接続を鑑みた上でのセキュリティ対策として、エンドポイント端末およびネットワーク監視の必要性を強調。その上で、ネットワークにおいては「認証VLANによる統合ネットワークやSDNの活用による運用コストの低減に対する意識が、これからの院内LAN構築に求められる」と指摘。最後に「仮想化やSDN等の新しいネットワーク技術を活用することで、病院情報システムの運用やセキュリティ管理が容易になる」と結んだ。
Skyによるセミナー「PCのメンテナンス、お困りではないですか?~病院内のPC管理を実現する方法~」では、佐々木邦義氏(日本海総合病院)が講演。佐々木氏は、同氏がシステム管理を担当する同院および酒田医療センターの診療の現況と、病院情報システムに関するハードウェア・ソフトウェア管理の現状および問題点を説明。IT資産の管理・運用と情報漏えいなどの医療ITに関するリスク低減のために、IT資産管理ソフトが必要であることを強調。外部記憶媒体の制御や操作ミスなどによるトラブルの解決など、クライアント運用管理ソフトウェア「SKYSEA Client View」導入によって、これらの問題点が改善した実績を、具体例を交えながら解説した。
<セミナーステージ>
PSPは、「医用画像システムのPSPが提案する地域包括ケアと院外情報共有」と題し、プレゼンテーションセミナーを行った。①夜間・休日などの緊急時に画像参照を可能にする仕組み、②施設間で診療や検査のオンライン予約が行え、情報共有ができる地域医療連携システム、③往診時などにモバイル端末を活用した情報共有ツール、の同社ならではの画像を通じた地域包括ケアへの取り組みを3点紹介し、今後は、検査データを地域の共有サーバで共有することなどで、地域包括ケアに貢献していきたいと同社の担当者が述べた。
トレンドマイクロのセミナーステージでは、山下芳範氏(福井大病院)が「セキュリティと利便性を両立する仮想化と監視の活用について」を演題に講演。同氏は医療情報システムのセキュリティになぜ仮想化が有効なのか、システム構成等を具体的に示して説明。その上で、「セキュリティは仮想化だけでは100%固められないことを知り、仮想化以外のリスクの存在も認識することが重要」と述べた。