長崎大学/NECのAIを用いて実施する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ワクチンの研究開発に、CEPIによる資金拠出が決定(25.3.10)
長崎大学感染症研究出島特区は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ワクチンの研究開発に向けて、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI: Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)から研究開発支援を受けることが決定した。CEPIからの資金拠出は最大7億5千万円であり、長崎大学が保有する知的財産であるワクチン粒子「ナノボール」組成の最適化を行うとともに、NECのグループ会社であるNEC OncoImmunity AS (NECオンコイミュニティ、注、以下 NEC OncoImmunity)の人工知能(AI)を活用して、SFTSワクチン候補タンパク質の解析を行う。
mRNAワクチンは、感染症の発生に対応するための迅速かつ柔軟なプラットフォームとして認識されているが、選択的細胞取り込みの低さ、副作用発現、製造工程の複雑さ、超低温保管の必要性などの課題を抱えていた。次世代のナノボール技術は、この課題を改善する可能性があり、それによってワクチンの効果の安定性を向上させ、より強い免疫反応を引き出すことが期待される。また、ナノボール技術により、ワクチンを極低温で保存する必要がなくなる可能性もあり、低中所得国など、特定条件下でのmRNAワクチン保存や流通に必要なインフラが不足している可能性がある低資源地域やアクセスが困難な地域での利用拡大につながる。
このたびのプロジェクトにより、深刻な流行やパンデミックを引き起こす可能性のある新種の病原体や、未だ特定されていない「Disease X」を含む、他の病原体に対するワクチン候補の開発に迅速に適応できる可能性がある。本プロジェクトはCEPIが主導し、日本やその他のG7およびG20諸国が支持する目標である「100日間ミッション」を後押しする可能性がある。このミッションでは、新たなウイルスによる感染症の発生の可能性があるワクチンを、わずか3か月で開発することを目指している。
研究開発のポイント
●主にマダニを介してヒトにSFTSウイルス(SFTSV)が感染して引き起こされるSFTSは、発熱、血小板減少、白血球減少、多臓器不全などを引き起こし、重症化すると死亡することもある感染症である。現在、西日本(九州・四国・本州の西側)も含めた東アジアを中心に広がっている。
●今回は、SFTSの発症や重症化を予防するワクチンの開発の前臨床研究試験まで(ヒトを対象とした臨床試験を行う前まで)の研究開発を行う。
●本研究開発の成果により、臨床試験の実施や規制当局からの承認を経て、ワクチン接種が実施されるようになれば、国内のみならず、東アジアを中心に広がるSFTSの対策と、それにより失われるリスクが高かった人命を救うことにも繋がることが期待される。
●また本成果により、AIとナノボール技術が新たなワクチン開発の有望ツールであることが明らかとなるとともに、さらなる研究により、今後の感染症流行やパンデミックの脅威にも役立つ可能性がある。このような感染症には、今後、深刻な人道的危機を引き起こす可能性がある新たな脅威、すなわち「Disease X」と呼ばれる感染症も含まれる。なお、新型コロナウイルス感染症は、最も直近の「Disease X」の脅威であった。
期待される成果
本プロジェクトは、SFTSのリスクを抱える人々に対して救命ワクチンを提供し、臨床試験や商業化の可能性に向けた基盤を築くことが期待されている。また、AIとナノボール技術が、既知のウイルスや「Disease X」など、流行やパンデミックの可能性がある他の疾患に対するmRNAワクチンの送達を改善する可能性を明らかにする可能性がある。
問い合わせ=NEC AI創薬統括部
E-Mail: contact@aidd.jp.nec.com