第3回 アジア・グローバルヘルス・サミット/各国要人や企業経営者らが ヘルスケアの未来について 最新の動向や共通の課題を 包括・多角的に討議重ねる
第3回アジア・グローバルヘルス・サミット(以下、ASGH)は5月17日~18日、香港特別行政区政府及び香港発展貿易局の共催にて、香港コンベンション&エキシビジョンセンターのホール3FGで行われた。現地開催(18日はオンライン開催)の17日には、三井物産と塩野義製薬の代表取締役会長が登壇した。そのセッションを中心に、今開催の見どころをレポートする。
第3回ASGHは、「ヘルスケアの未来を再定義する」をテーマに、各国の要人や国際的な医学・科学の研究者・専門家ら80名以上の講演者が登壇し、公衆衛生、医療・ヘルスケア分野の最新動向や共通課題などについて意欲的に討議や情報発信を行った。なお、同サミットの現地会場への来場者数は2500人に達した。
17日のオープニングセッションでは、香港貿易発展局主席の林 建岳氏が開会の辞を述べた後、中華人民共和国香港特別行政区行政長官の李 家超氏が登壇。ASGH開催の意義や概況等について、次のように語った。
「幾多の学者や教授らが自らの研究をASGHにおいて共有することが、ヘルスケアの発展に必ず役立つと考える。また、ヘルスケアのビジネスにおいては、中国本土の政策もあり、香港は国際的なハブへの発展を遂げようとしている。特にバイオテクノロジーに関しては世界第2位の投資実績を持ち、香港政府支援によるさまざまなプロジェクトが進められている。人材育成や創薬の分野なども含め、今後のより一層の発展を期待したい」
続いて、世界保健機関事務局長のテドロス・アダノム氏が、ビデオレターの形でオーロラビジョンに登場した。同氏はその中で、「我々はこの3年間でさまざまなことを学び、医療エマージェンシーは人々の健康だけではなく経済や社会の安定にも影響することが分かった。ヘルスケアがいかに世界の安全を保つために必要かを今改めて認識し、医療の将来発展に向けて共に頑張りたい」と述べた。
サミット午前の部は、今回のASGHと同じ「ヘルスケアの未来を再定義する」をテーマとしたプレナリーセッションが行われ、三井物産代表取締役会長の安永竜夫氏は第2部に参加。ロベルタ・リプソン氏(ユナイテッド・ファミリーヘルスケア創設者)、デニス・ロー氏(香港科学院院長)、ジョナサン・シモンズ氏(グラクソ・スミスクライン会長)、王 興利氏(復星医薬総裁)とともに、パンデミック後の医療の未来を形成する重要課題について考察した。
安永氏は同ディスカッションにおいて、三井物産の現況をこのように語った。
「当社は貿易会社からシナジー投資会社へ転じ、現在は1兆円規模の投資を行っている。その一環としてアジア10ヵ国に80の病院を持つIHHヘルスケアを買収した。香港にある港怡病院もその1つだ。これらの活動を通じてヘルスケアリスクをマネジメントし、疾患予防を医療コスト削減につなげることを目指している」
安永氏はディスカッションの内容が中国本土でのヘルスケアビジネスの難しさに及ぶと、「当社は香港大学と提携して、中国本土からのインバウンド対象のサービスに力を入れている。生命保険もその対象だ」と語り、「今後はより一層、データ分析に基づくビジネスを重視していく」と抱負を述べた。
塩野義製薬代表取締役会長兼社長CEOの手代木 功氏は、午後の部のテーマ別セッション「アジアにおけるヘルスケア産業の新たな焦点」に登壇。レイ・リペング氏(晶泰科技Co-founder兼CIO)、ポラマーポルン・プラサルトン・オソス氏(バンコク・ドュシット・メディカル・サービス主席)、メルビン・トー氏(CKライフサイエンスインターナショナルホールディングス副社長)、アンディ・ウォン氏(インベスト香港)とセッションし、ヘルスケア業界の主要な推進力や投資のハブとしての香港の利点などについて論じた。
手代木氏はアジアのヘルスケア成長要件について「アジアから良質な医薬品を世界へ供給するという、新たな製品の流れをつくることが重要だ。『世界からアジア』ではなく『アジアから世界』へ、いかに流れを変えていけるかにもっと注力すべきではないか」と指摘。続いて今後のヘルスケア推進のトレンドに関して、製薬会社トップの立場から次のように述べた。
「我々がコロナ禍の3年間で学んだのは、『どんな状況にもスピードを持って対応しなければならない』ことだ。その中で、消費者が自社製品を選択する理由付けの構築が必要になる。また、新薬開発は今後も必要だが、それ以上に薬を使わないで予防できるようにすることが重要だ。その実践のためには、地域をはじめとしたコラボレーションが欠かせないと考える」
午前の第1部では、「パンデミック後の世界における国際協力」をテーマに、ビクター・チュー氏(ファースト・イースタン・インベストメント・グループ会長兼CEO)と、ダグラス・フリント氏(知財グループ会長)との対話セッションがオンラインで行われた。
その中でダグラス氏は、「国際投資の対象で有望なものは何か」とのビクター氏の質問に対して、「疾患の早期治療・早期発見のためのDNA研究」と回答。続くビクター氏の「2~3年後、ヘルスケアにおいてどのような分野がビジネスとして有望か」との問いについては、有望株の筆頭を「DNAとAIによる診断支援」とし、「国際的な人材交流を全世界視野で考えることが重要」と結んだ。
なお、日本人の演者は他に、17日のプレナリーセッション「中国の医療・ヘルスケア業界の最新動向と投資環境の変化について」に、原 丈人氏(アライアンス・フォーラム財団会長)が登壇。18日のテーマ別セッション「歯の健康:私たちの笑顔を守るために」には、小川祐司氏(新潟大学医歯学総合研究科教授、WHO口腔保健協力センター長)が参加した。