保健医療福祉情報システム工業会―JAHIS/恒例の新春講演会─データ循環型社会への進展訴える
保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS) は、1月18日、一昨年、昨年同様に賀詞交換会に代わるオンライン新春講演会を開催した。
冒頭、下山赤城総務会長より、現会員数は383社、医療、福祉、IT業界における9割以上の企業が参加しており、一昨年から医療事業をメインとしない企業が増えてきていることが報告された後、森田隆之会長の挨拶が続いた。同氏は「昨年6月に閣議決定された診療報酬改定DXは、JAHISが提案したものであり、それが政府の方針に反映された画期的な年であった。本年は、電子処方箋やマイナ保険証への対応等、医療DXを担う各種取り組みが本格化する。
このような動きは『2030ビジョン』で掲げた健康で安心して暮らせるデータ循環型社会の実現を加速するものだ。今後ともJAHISは、データ利活用の提言や啓発活動、標準化を通じて同社会の実現を目指していく」と述べた。
来賓として、田中彰子氏(厚生労働省医政局参事官)、飯村康夫氏(経済産業省ヘルスケア産業課企画官)が両省の医療DⅩ、セキュリティ等に関わる施策を説明。同じく来賓として山本隆一氏(医療情報システム開発センター理事長)が挨拶を述べた。山本氏は「医療DⅩとは、単なるチェンジではなくトランスフォームであり劇的な変化でなければならない。直近の各種デジタル化が進んでも、医療が劇的に変わらないだろう。ただ、適切な電子化が進み、また各種医療・健康情報が多面的、相互運用的に処理できるようになり、かつセキュリティが担保されるようになれば、まさに医療DXに続くものだ。それはJAHISが唱えてきていることと軌を同じくするものであり、期待したい」と抱負を述べた。
次いで、運営会議議長の大原通宏氏が「2023年の年頭にあたって」をテーマに講演。市場環境、2022年の活動状況、2023年の事業活動方針等を紹介したが、事業活動方針においてサイバーセキュリティへの取り組みをつぎのように解説。「医療DⅩ実現においてサイバーセキュリティへの対応は不可欠だ。そのためにJAHISとしては①内閣サイバーセキュリティセンター、経産省、厚労省等より発出される関連の注意喚起の会員向け発信の継続、②セキュリティ対策のアンケートとしてチェックリストを配布し取り纏め、より実効性の高い活動の実施、③医療情報セキュリティ開示書の普及、取り組みの強化、④業界全体の意識の底上げをしていく」と述べた。
特別講演としては、村上憲郎氏(元Google米国本社副社長兼同日本法人代表取締役社長/前Google日本法人名誉会長)が「最新IT動向と医療DⅩの展望」を演題に登壇。まずICTの歴史を解説した後、医療関連デバイスもウェアラブルからインプランタブルに変化していることを指摘。医療DⅩについては「5GはAI/IoT時代の必須のICT基盤だ。医療DⅩの対象としては、①病院のICT、②医師間のコミュニケーション、③入院患者とのコミュニケーション、④外来・在宅患者とのコミュニケーション、⑤地域医療機関の連携があげられる。①については、HL7 FHIRの普及が重要だ。⑤については、保健所の強化=スマートヘルスケアセンター化、診療所のスマートクリニック化が望まれる」と示した。
その後、村上憲郎氏と山本隆一氏、先崎心智氏(JAHIS副会長)の鼎談が行われ、その中でセキュリティについて村上氏は「医療従事者のデータに対するセキュリティ意識を徹底すべきだ。悪い奴はどこにでもいる。それに対応するアプリケーションも提供されつつある。エッセンシャルな必要経費は惜しんではならない」と述べ、また先崎氏は「施設間のやりとりが増大している中で、従前の境界型のセキュリティではだめだ。まず1つひとつのデバイスの確認、多要素での認証を意識したい。すぐにできることにハッカーが諦めるというパスワードの16桁化がある」。山本氏は「長らくデータサイエンティストの不足が懸念されてきたが、育ちつつあることは朗報だ」とし、またJAHISについて、「2030ビジョンには期待しているが、標準化といってもキリがない。今後はパーフェクトではなくてもミニマムな社会実装が必要だ。全医療機関の検査項目の5%にでも実装がなされればと望む」と述べた。