第29回日本医学会総会 2015 関西
第29回日本医学会総会 2015 関西が、4月11~13日の3日間、京都市で開催された。2011年の第28回の総会は東日本大震災のため、講演会を中止するなど規模を縮小しての開催となったため、8年ぶりの本格的な医学会総会となった。京都での開催は24年ぶりだが、今回は京都市だけでなく、一般向けの公開展示「未来医XPO’15」が神戸で行われたように、全関西(6府県)が協力しての開催となった。
初日の11日には、皇太子徳仁親王殿下の臨席の下、開会式および山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所)の開会講演「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」が行われた。山中氏は、iPS細胞研究所が2030年までに取り組む中長期目標について述べ、▽iPS細胞ストックを柱とした再生医療の普及▽iPS細胞による個別化医療の実現と難病の創薬▽iPS細胞を利用した新たな生命科学と医療の開拓▽日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備―の4点を挙げた。そして、山中氏は講演の最後に「iPS細胞の医療応用に今後も全力を尽くす」と決意を示した。
開会講演後、第29回日本医学会総会 2015関西の会頭である井村裕夫氏(京都大学名誉教授、元京都大学総長)による会頭講演「日本の未来のために、いま医学・医療は何をなすべきか」が行われた。
井村氏は、まず医療の未来を展望する上で重要になるテーマとして①生命科学/医学の進歩、②情報技術の進歩、③脳研究/人工知能、④人口増加と資源の不足、特に人口構成の変化、⑤経済・産業のグローバル化、⑥地球環境問題の6つを挙げた。その中で、講演では④の人口構成の変化を中心に論じた。井村氏は、今後5年間で年間50万人、その後の10年間で年間70万人の人口が減ると予想されることから「毎年1つの都市が消えていくほどの減少」と、少子高齢化による人口減少社会への危機感について述べた。
さらに、2025年問題に見られるように高齢の患者が増加する中、問題となってくるのが、癌や心・血管系疾患、認知症などの「非感染性疾患」(NCD:Non-commnicable Diseases)であると述べた。これらの疾患は、遺伝素因と環境因子の相互作用が考えられ、加齢とも関係し、無症候期が長いなどの特徴を持つことから、井村氏は「NCD」への対応として、先制医療の重要性を説明した。
井村氏は、NCD研究の事例として、第二次大戦末期に起こった「オランダの飢餓の冬」に対する追跡研究を紹介。そして、これまでは、病気になる人を待つ医療だったが、先制医療が求められる時代では、今までとは違った新しい公衆衛生の在り方を追求していくことが必要と述べた。その上で、少子高齢社会の医療の課題として、①病診連携の確立、②終末期医療、③医療資源の効率のよい活用、④チーム医療、⑤周産期医療・小児医療の充実、⑥医師養成の在り方─を挙げ、「詳細構想の検討が喫緊の課題」と述べ、井村氏は講演を締めくくった。
会頭講演後は、横倉義武氏が日本医師会会長講演「日本医師会の医療政策~健康な高齢社会の構築を目指して」を、次いで髙久史麿氏が日本医学会会長講演「わが国の医学研究の方向性」と題した講演を行った。
同総会では、医学関係で8、医療関係で6、「きずな」関係で6つの、計20の柱のテーマに基づく学術講演が行われた。
11日に行われた柱11「医療とIT(情報技術)」の企画1「医療とIT~近未来の医療はこう変わる」では、寺田智祐氏(滋賀医大)、石川広己氏(日医)を座長として、4人の演者が講演を行った。
大江和彦氏(東大)は、「医療におけるICTの現状と展望」と題して、ICTがもたらす近未来の医療のイメージを語りながら、現実の課題とのギャップについても解説した。
澤 智博氏(帝京大)は、「スマートデバイスとクラウドコンピューティングが織りなす価値ある医療」と題して講演し、「IoT(Internet of Things)」やウェアラブル技術による新しい医療へのデータサイエンスの可能性を提示した。
飯原なおみ氏(徳島文理大)は、「良薬は『調剤情報』利活用の仕組みが左右する」と題して講演し、同大が実施した「かがわ医薬患連携情報共有システム」の事業について説明。
川邊健太郎氏(ヤフー)は、「IT企業が挑むヘルスケア~体質とライフログのデータ解析から生まれるサービスとは」と題して講演し、同社の取り組みである「HealthData Labプロジェクト」を紹介。病気予防のためにIT企業として何ができるのかを説明した。
12日には、ホットトピックスとして「癌診療の最前線」が行われ、杉村和朗氏(神戸大)が、「進行がんに対する放射線診断・治療の最前線」と題して講演を行った。杉村氏は、高齢社会において、より低侵襲な高精度放射線治療の重要性が増してきたと述べ、画像診断についても新しい薬剤を用いたPET診断などの最新技術を紹介。「低侵襲治療の時代において、画像診断の重要性はより高くなっている」と述べた。
次いで、本庶 佑氏(京大)が、「PD-1抗体によるがん治療」と題して講演。本庶氏らによって発見されたPD-1抗体が、免疫活性を増強することで抗がん能力を高めることをつきとめたとし、同抗体を用いた免疫治療への取り組みを紹介した。
総会最終日には、今回の企画の総括として「健康社会宣言2015関西」が発表された。